「完全防音」はありえない?~防音室の『聴こえない』のメカニズム
防音室を作りたい、というお客様から時々尋ねられるのが、「完全防音にできますか?」というご質問。
そうですよね、せっかく防音室を作るのですから、徹底的に防音したいというお気持ち、よーくわかります。
結論からお伝えします。
物理学的に、音エネルギーをゼロにすることはできませんが、耳で「聴こえない」というレベルまで落とすことは可能です。
本日は、防音室の『聴こえない』のメカニズムについて、簡単にお話ししたいと思います♪
そもそも音とは?
今さらですが、音とはすなわち物体の振動によるものです。
物体の振動が、空気などを伝わって人の耳に届き鼓膜を揺らすことで、「音」として認識されます。
この音の大きさを、耳による「感覚」ではなく「値」として定義づけたものが、音圧レベル(単位:dB(デシベル))であることはご存じのとおりですね。
防音のしくみ
防音業界では「質量則(しつりょうそく)」と呼ばれる法則が知られています。「質量則」
単位面積あたりの質量が大きいほど(=重いほど)、音響透過損失が大きくなる(=遮音性能が高くなる)という法則です。
簡単に説明すると、「音は重さで止める」ということです。
先ほどご説明した通り、音とは物体の振動によるものなので、重たいもので振動を止める、というとイメージしやすいですよね。
住宅に置き換えると、壁や床を厚くしたり、重い建材にしたりする、ということになります。
では、遮音性能を高めるために、極限まで壁や床を厚くすれば・・・?
今度は、建物自体がその重量に耐えられなくなってしまいますね。
ちなみに、減衰量(減る・減らせる音圧)を40dBから45dBにアップさせるだけで、理論上では2倍の重量の素材が必要になります。
50dBにしたいのなら4倍です。
さすがにそこまで重量はかけられませんから、吸音材を使用したり、空気層を設けるなどして軽量化する方法もありますが、それでも一般住宅で100%の遮音を求めることは、残念ながら構造的・物理的にほぼ不可能と言わざるを得ないのです。
100%ではなく、聴こえないレベルまで防音工事をする
例えば、防音したい対象の音源がピアノだった場合、その場所で聴こえるピアノ以外の音のことを「暗騒音(あんそうおん)」と言います。
ピアノを演奏していなくても、テレビやエアコンの音、冷蔵庫のモーター音、窓の外から聞こえてくる車の音など・・・。
静かな室内でも、多くの場合、30dB程度の音が存在しています。
例として、防音室からピアノの音が25dB漏れていたとしましょう。
この場合、漏れてくるピアノの音は室内の暗騒音よりも小さいので、人の耳には聴こえないように感じるのです。
これが、「完全防音」といわれるメカニズムです。
「漏れる音」<「室内の音→聴こえない(ように感じる)
広く世の中で「完全防音」と呼ばれている構造は、物理学上100%の遮音・防音を意味しているのではなく、「聴こえないように感じる」という、数値上の性能に基づいた体感を表現しているものだということがおわかりいただけましたでしょうか。
環境スペースでは、誤解を避けるために「完全防音にはなりませんが、聴こえないと感じるレベルにすることはできます。」
という表現を使っているだけなのです。
※遮音性能と聴こえる音について更に詳しく知りたい方はこちらへどうぞ♪※
余談ですが、0dB(ゼロデシベル)ってどんな状態だと思いますか?
ゼロというくらいだから、「無音」じゃないの?と思いますよね。
実は違うんです!
音圧レベルは「対数」で計算するものなので、必ず比較対象となる基準の値が存在します。
その基準値が「0dB」で、人が聞き取れる最小の音圧レベルのことなのです。
ですから、聴くことはできませんが「マイナスdB」という音も存在するのですよ!
長くなりそうなので、このあたりのお話は、またの機会にご紹介できればと思います。