TEMPOLOGY vision Vol.17 「SoundScape より愛をこめて」内容をご紹介 第二弾
第二弾
特集 環境スペースプロジェクト
インタビュー
取材【Ebila Hall】
×
環境スペース株式会社
環境計量士 杉山操
&
Design/設計 竹田直紀
2024年6月30日に発行された冊子 一般社団法人テンポロジー未来機構 TEMPOLOGY vision Vol.17 「SoundScape より愛をこめて」。
この特別な一冊に収められた記事を公開します。前回は【Felice 音楽ホール】を例に挙げ、竹田のデザインに関する学びやこだわりについて特集しました。
今回は第二弾として、環境スペースの環境計量士、杉山操が携わった【Ebila Hall】についてのインタビューです。
音響建築に必須となる音の測定は、外部に委託する企業がほとんどですが、当社は社内で一貫して、環境計量士とデザイナーが連携することで現場に緻密に落とし込むことができます。
環境計量士とは?
経済産業省が管理する国家試験に合格した人だけが持てる資格で、環境に関する音、振動、濃度の計量結果を証明する際に必要です。この資格を持つ人は、主に工事現場や交通機関の騒音・振動、工場から排出される汚染物質などの測定や計量管理を行います。つまり、測定のスペシャリストです。
前章のインタビューで竹田は、「音楽のための空間は、感覚ではなく形状や建材の数値から計算される論理的なものだが、その結果については聴覚という感情も含む主観が判断する」と述べています。
杉山の存在によって音の論理がしっかりと理解できるため、竹田はその知識を取り入れ、感覚的にデザインを進めることが可能です。
建築で音を通じて人の心を揺さぶるために、環境計量士の杉山とデザイナーの竹田が共に創り上げた、地域のコミュニティに愛される音響建築の秘密をご紹介します。
Ebila Hall
– TEMPOLOGY vision Vol.17 「SoundScape より愛をこめて」抜粋
2015年に竣工、声楽の場として設計されたのがEbila Hall(東京都品川区)。
自宅隣の駐車場に賃貸住宅を建設、活用するという計画の中でオーナーのご息女が声楽家であることから音楽ホールを併設することとなりました。
「教会のような響き」オーナーのご息女は、グレゴリオ聖歌というクラシック音楽以前に教会で歌われていた楽曲を専攻されています。
グレゴリオ聖歌全盛時代の教会はノートルダム大聖堂のように一部木造ではなく、内側も全て石造でした。 そのため、残響時間の長い、響きの多いホールがご希望で、イメージは教会でした。そこで実際に歌っていて気持ちが良いという新大久保の東京中央教会のコンサートに設計チームで参加、参考にさせていただきました。
有資格者が在籍する計量証明事業所は日本全国で130社ほどと少なく、しかも地方公共団体、調査会社など測定に主眼が置かれた事業者が大半。当社のように音楽空間施工で環境計量士が活躍している例は希少というわけです。
取材・文:中川寛子 写真:千葉正人
当日は晴れていて、ホールに入ると、こだわりの天窓から、光が差し込んでいました。 スポットライトのように自然光が入ってきて、厳かな雰囲気です。ライティングも素晴らしいですが、窓からだけでも十分なくらい、効果的に光が取り込まれるように設計されていました。
環境計量士 杉山が工夫を凝らしたという、壁・天井の拡散形状が、装飾も兼ねていて見事でした。
よく見ると、垂直に向き合う壁はなく、複雑な形になっています。天井は逆アーチ型の反響板となり、屋根との間には空間があります。
オーナー 鏑木さまのご要望は残響が長いホールとのことでしたが、確かによく響きます。でも、特定の音が響きすぎたり、濁った音が聞こえることはありませんでした。
Ebila Hallは全てに石を使うことは難しく、レンガを模したFRPを使用しています。それが逆に柔らかく、吹き抜けによい残響があって、とても気持ち良いんです。
声楽関係の音楽家の方々に、竣工から時間が経っても常に人気を博しているとのこと。
その業界でも有名なのだとお話しをお伺いでき、杉山も嬉しく思っています。
出演者の皆様の聖歌が、残響を活かして輪唱のように聴こえるようにコントロールされていてとても美しく、感動的で、音響設計へのこだわりの重要性を改めて実感しました。Ebila Hallが長年にわたり人気を保っているのは、ご息女の声楽や、音響と教会のような響き『Sound Scapeより愛をこめて』があったからだと強く感じています。この音響設計と意匠設計に携わることができ、本当に光栄に思っています。 – 環境スペース株式会社 広報部
テンポロジー未来機構とは
テンポロジー未来機構は、都市、建築、ファッション、アート、デザイン、テクノロジー、エンタテインメントの各分野を横断的・複眼的に眺め、分析し、課題の抽出にあたってきた創設 25 年になる会員制の異業種交流団体である。2016 年から再開した紙媒体制作で、世の中を横断的・ 複眼的な見方で問題を探り、解決の糸口を見出すべく場の提供を目指している。
Vol, 17 企画内容
Vol.17 では、ストレス多い日々の健やかに過ごすに重要な要素とようやく捉えられるように なった「音・音響・音環境」について丸ごと一冊取り組む。 個人宅のピアノ室からプロユ ースの音楽スタジオ・音楽ホールまで、「音」 の専門家として、『防音・騒音対策』、『残響調整』 を行い、『快適な音場環境づくり』をプランニングする環境スペース(株)の仕事に焦点をあて、 人間が生活する上で欠かせない「SOUND SCAPE―音の風景」を読み解く。
ページ構成
■Cover Story:森田恭通(グラマラス代表) GMOグローバルSTUDIO
■「ドイツ音環境の現状」 服部 圭郎(龍谷大学教授 ベルリン工科大学客員教授)
■「音環境の成熟が示す未来の風景」 嶺島 伸治 (環境スペース株式会社 代表)
■「SOUND SCAPEデザインの可能性」 斉藤 尋己 (Sound Scape デザイナー/アーティスト)
■Session:「音環境の民主化を目指して」 若杉 浩一 (武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授) × 嶺島 伸治 (環境スペース代表)
■TEMPOLOGY Scape:アップリンク吉祥寺 シネマ・チュプキ・タバタ 平塚 千穂子
■Session:「人の五感に影響を与える映画館づくり」 浅井 隆(アップリンク代表) × 嶺島伸治(環境スペース代表)
■寄稿:「映画と音について思う 二、三の事。」 高崎卓馬
■「『聞き入る文化』の創造をめざして 」 上田 渉(株式会社オトバンク 代表取締役社長)
■文化の発信地 IDÉAL TOKYOに見る 音響と空間デザイン:小泉 裕 × 分林 実芳子
■環境スペースプロジェクト
取材「Felice」 × 環境スペース株式会社 Design&設計 竹田直紀
取材「TUTTO BUONO」 × 環境スペース株式会社 Design&設計 竹田直紀
取材「Ebila Hall」 × 環境スペース株式会社 環境計量士 杉山 操・Design&設計 竹田直紀
■Session:「FENDER FLAGSHIP TOKYOとKEF Music Galleryにおける音の工夫」 アストリッド・クライン マーク・ダイサム 久山幸久(KDa) × 嶺島伸治(環境スペース代表)
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