施工ポイント
クライアントがピアノ界のロールスロイスとも称されるベーゼンドルファーコンサートグランド290インペリアルを手に入れたことを機に、地域へ音楽を広めたい思いもあり2階建ての賃貸マンションの一部に音楽ホールを作ろうと計画したものである。
このために当社は、日本の音響設計の草分けである永田音響設計出身の設計担当、スタジオを数多く手掛けてきた制作担当のベテランお2人に、一から音響設計を教えていただくことになった。同時に、当社設計部の代表であるデザイナーの竹田は、サントリーホールを始め、国内外のホールを巡り歩き、聴覚を鍛え対応した。
結果、出来上がったのは細部に至るまでこだわりに満ちた音楽ホールである。
「2層吹抜け、5mの天井高があるホールで、壁面の下部3mにはオーナーのご友人が所有する山林のタモを使ったリブを配してあります。誰にも見えない床下にも音を豊かにする工夫が凝らされています。それが大引きのピッチ。一般には均等に半間ピッチで施工しますが、ここではハの字にするなどランダムに配されています。配列が均等だと音の伝播も均質になり、深みに欠ける。手間をかけて不規則にすることで異なる固有振動が重なって響く空間になっているのです。」
リブ:ひとつずつ形状の異なるリブを組み合わせて利用しており、あたかも森林の中にいるような気持ちの良い音環境を実現。見た目にも質感のある、美しい素材。
アールと多面体:天井も多面体。拡散形状、屏風折れを採用。壁面には音響効果を高めるための計算に基づく湾曲(=R)が入っている。
これ以外にも図面通りだけを良しとするのではなく、施工中に現場で墨出しを行って確認を重ねるなどべテラン2人のやり方に当社は感銘を受けた。音楽のための空間は残響時間設定からスタートする。感覚ではなく、形状、建材の数値などから計算される論理的なものだが、その結果については聴覚という感情も含む主観が判断をする。「その深さ、普遍性に音楽のための空間作りの面白さに目覚めた」という。
「現在は視覚偏重の時代。以前手掛けていた店舗デザインは視覚的なアプローチが中心でそこにトレンドなどを加味。時代を反映する面白さはあったものの、時間が経つと古く感じられる面もありました。ところが、特に音のための空間には流行はなく不変。10年前に作ったホールには今行っても新鮮な驚きがあります。」