伝統芸能を身近に。思いっきり叩ける和太鼓教室
お客様データ概要
お客様名 | 宮本卯之助商店 和太鼓スクールHIBIKUS様 |
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用途 | 和太鼓教室 |
広さ | 525.55㎡ |
建物構造 | 鉄筋コンクリート造 |
施工日数 | 90日 |
施工エリア | 神奈川県 |
防音室を作ったきっかけ
文久元年から続く歴史ある会社、宮本卯之助商店様。御神輿や太鼓などの製造・販売を長年続けていらっしゃいました。その長い間に培われた信頼も厚く、宮内庁から依頼を受けることもあるそうです。
平成に入り、日本の佳き伝統を更に伝えていくために、これまでの販売に加え会員制の和太鼓教室の運営を開始。新たな角度から日本の祭りと伝統芸能へ貢献するため、最初の教室を横浜に計画なさいました。
お客様の要望
和太鼓は非常に大きな音の出る楽器であるうえ、複数人でレッスンを受けるため、非常に高い遮音性能が求められました。昼間だけでなく、会社帰りにレッスンが受けられるように夜間のレッスンも想定していらっしゃいましたので、より高い遮音性能値の確保をご希望でした。また、教室の上階はマンションで人が住んでいらっしゃるため、音漏れや振動によって居住者の方々に迷惑がかからないようにする必要がありました。元々酒屋の倉庫として使われていた場所を和太鼓教室として使用するので、防音性能の根拠をお知りになりたい、と慎重な吟味をご希望されていました。
解決方法
建物自体が広く、天井の高さも7mあったため、通常の浮遮音構造より更に十分な空気層を確保した二重の浮遮音層を構成するプランを試みました。更に、外部の暗騒音を測定し必要な遮音性能値を特定。また、和太鼓の周波数ごとの音圧と吸音率を細かく設計してプロット、様々な角度からのシミュレーションデータを作成し施工いたしました。そのうえで分析データに基づく最適な防音・防振の方法と性能値の保証をお約束いたしました。
1階はもともとの天井の高さを生かした吹き抜けとスタジオ、2階部分は受付や物販などの共用部として、既存の建物構造を活用することでコストを抑える代わりに、スタジオ内部の防音構造はしっかり作り込むことで、無駄なく効果的な設計をすることができました。
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平面図プラン ①
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平面図プラン ②
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暗騒音のシミュレーションデータ
ご成約
様々な角度・視点からご提案をさせていただき、
お客様のご要望通りの性能・プランでのご成約となりました。
実施設計開始
施工開始
施工中の様子
※クリックで画像の全体を表示できます
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1.施工前の様子
元々酒屋の倉庫だったこの建物は天井がとても高く、7mありました。
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2.施工前の様子
2階部分と中央の吹き抜けをうまく利用して、スタジオと物販などの共用部を造っていきます。
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3.墨出し
実際の現場に、柱や壁など工事の下地となる印をつけていきます。このあとの全ての進行の基準となる重要な工程です。
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4.固定遮音層工事
墨出しした印に合わせて鉄骨柱を立てていきます。
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5.固定遮音層工事
高い天井までの柱が立ちました。ここから固定遮音層(既存の面に接した層)を造っていきます。
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6.固定遮音層工事
鉄骨柱を軸にLGS(Light Gauge Steel 軽量鉄骨)で下地を立てていきます。木製下地に比べて湿度変動に強く、白アリなどの被害も受けにくい建材です。
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7.固定遮音層工事
組みあがった下地にロックウールと呼ばれる断熱材を並べていきます。(壁・天井)
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8.固定遮音層工事
遮音効果のある石膏ボードを貼っていきます。
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9.固定遮音層工事
高所作業車を使用して、壁面と天井を施工していきます。
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10.換気設備工事
空気の通り道から音が漏れないように管を曲げたり、サイレンサーを設置して対策します。
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11.換気設備工事
サイレンサーは、大きさや長さ、口径などを変えることによって周波数ごとに適した防音効果をもたらします。
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12.空調設備工事
室内機を吊り込みます。
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13.給排水工事
配管工事を行います。
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14.電気設備工事
音はコンセントからも漏れてしまいます。音漏れを防ぐため、鉛ボックスを仕込んで対策します。
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15.浮床遮音層工事
既存の床を研磨して、レベル(高さ)を合わせていきます。
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16.浮床遮音層工事
床のレベルを調整するために、モルタルで下処理を行います。
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17.浮床遮音層工事
PSブロックという防振用のゴムが埋め込まれた耐水性のある緩衝材を敷き込みます。
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18.浮床遮音層工事
防水シート・ラス網を敷き込みます。
※ラス網・・・モルタルやコンクリートの剥落を防ぎ固定するための金網。 -
19.塗装浮床遮音層工事
ポンプ車を使ってコンクリートを圧送し、打設していきます。
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20.塗装浮床遮音層工事
このようにコンクリートで緩衝材を挟み込む「湿式浮床工法」は、和太鼓のような重量床衝撃音の対策に効果的です。
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21.鋼製防音建具工事
先ほど施工した固定遮音層側の壁に、鋼製防音ドアを設置します。開口部もしっかり補強しています。
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22.浮遮音層工事
建物の躯体から浮かせた構造にするため、先ほど施工した固定遮音層から浮遮音層を造るための下地工事を行います。
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23.壁下地開口補強
浮遮音層の下地に石膏ボードを貼っていきます。
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24.第二浮遮音層工事
今回は、浮遮音層を二層にすることで、更に高い遮音性能を得られるようにしました。天井の高さが十分あったため、この工法が可能でした。
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25.第二浮遮音層工事
同様に、石膏ボードを貼っていきます。石膏ボードは非常に重い建材のため、建物の耐荷重を考慮して綿密に設計を行いました。
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26.浮天井吊り金具
天井の浮き構造の内部です。既存の天井から、防振ゴムのついた金具で浮き構造を吊っています。この防振材があることによって、外部への音漏れを防ぎます。
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27.浮天井吊り金具
使用した吊金具は100個以上。全て人の手でゴムの細かい調整が必要です。調整を誤ると目指す遮音性能が取れなくなってしまいます。
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28.鋼製防音建具工事
浮き遮音層側の壁にも鋼製防音ドアを設置します。こちらも開口部をしっかり補強します。
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29.スタジオ部造作工事
床フローリングを貼っていきます。完成までもう少しです。
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30.共用部仕上げ工事
物販エリアなど防音構造でない部分の壁にクロスを貼っていきます。配管は敢えてむき出しでインダストリアルな雰囲気です。
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31.完成
木のぬくもりのある明るいスタジオの完成です。
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32.完成
もともとの天井の高さを生かし、圧迫感のない空間にすることができました。
竣工時測定報告書(性能検証)
契約通りの性能値が確保できていることを確認してからお引き渡しいたします。
施工担当者からのコメント
和太鼓のような低くて体に響く音をしっかり防音するには「浮遮音構造」と呼ばれる構造を作って防音していく必要があるのですが、今回は建物の構造上、二層の浮遮音構造を作ることができたことは大きな要因でした。
大変だったのは天井の吊り金具の調整です。天井の空間に入って、防振ゴムの調整をひとつひとつ手作業で行いました。膨大な量だったのですが、それだけに完成したときの喜びが大きかったです。
設計施工を通じて、伝統ある宮本卯之助商店様の新しい道への第一歩をお手伝いさせていただくことができて誇らしい気持ちになりました。